人事・労務
現場事故・労災事故・労働安全衛生法に基づく責任

建築工事の現場で,足場事故が発生し負傷した作業員が,元請負業者に対して損害賠償を請求した訴訟事件

 建築工事現場で,元請負人が手配した大工が,足場板の一部を外して作業をしていたため,孫請け業者が手配した設備業者が,その足場部分を通った際,足場から落下して負傷した。
 同事案に関し,受傷した作業員は,元請負人業者に対して,民法第715条の使用者責任に基づき損害賠償を請求した事案であり,元請け=被告側代理人として訴訟を追行した。
 当該作業員は休業損害,逸失利益等を請求しており,請求金額は2400万円を超える金額となった(足関節に後遺障害が生じたとのことであった)。
 上記事件では,当該作業員が,足場昇降の安全のための設備である足場用階段を使わなかった点(足場用階段を使用すれば,大工が足場板を外した場所の足場を使用する必要性は全く無かった),一人親方の特別労災加入が指導されていたにもかかわらず,当該作業員は特別労災に加入しておらず,その結果,損害が拡大した点(労災保険が下りない),当該作業員は確定申告時において赤字申告をしており,そのため,当該作業員の休業損害算定の基礎となる年収が不明である点などが問題となった。 
 なお,当該大工は,本件に関し,業務上過失致傷罪で刑事告訴され,略式命令により罰金刑に処されている。
 元請け業者は,自らの現場の安全措置を講じる義務がある者であることから,関係裁判例による限り,指揮監督関係,実質的な使用関係が認められる場合には,現場での事故に関し,民法第715条の使用者責任が成立することが多い(あとは過失相殺の問題となる)。
 そのため,本件では,前述した問題点を前提に,双方の攻撃防御活動が行われた。
 同事案においては,①現場状況の再現写真の作成(解説文付),②他に当該事故現場の工事に携わった者に対するアンケートの実施(足場用階段の設置の有無,箇所,使用の有無等について)等を整理し,裁判所に理解できる形での客観的な立証を行うとともに,足場を外した大工本人,受傷した作業員,元請の担当者の尋問手続を行った。
 第一審判決では,過失割合が3(被害者たる設備業者):7(大工)と認定され,一部勝訴,一部敗訴の結果となり,双方が控訴提起し,高等裁判所の和解の斡旋により,和解解決した。
 現場を統括する元請業者には,高度な現場の安全措置を講じる義務が課されることを痛感させられた案件である。

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