商取引・ビジネスロー・競争法
フランチャイズ取引

フランチャイザーが,フランチャイジーの倒産により客が被った損害の賠償を,客より請求された訴訟事件

 ある住宅フランチャイズにおいて構築・運用されている「住宅完成保証制度」を,フランチャイジーが利用せずに施主と請負契約を締結し,同フランチャイジーにおいて,前払い金として施主より約1400万円余りの代金を受領した。しかし,同フランチャイジーはその後に実質破綻したため,工事が実施できない状態となった。そこで施主は,当該実質破綻したフランチャイジーのみならず,フランチャイザーに対しても,前払いにてフランチャイジーに対して既に支払った1400万円の損害を被ったと主張して損害賠償を請求した事案。フランチャイザー側の被告訴訟代理人として関与した。
 施主側は,全件につき住宅完成保証制度が適用されないことなどを批判し,概要,そのような不完全な制度であるにもかかわらず,住宅完成保証を売りに,広告,宣伝を行ったため,施主において信頼し,当該フランチャイジーと契約を締結した結果,損害を被ったのであるから,制度運営主体としてフランチャイザーにも法的責任がある旨,主張したが,第一審は全部棄却した。
 施主側は,控訴を提起したが,控訴審は第一審判決の結論を維持し,施主側の控訴を棄却して,判決は勝訴のまま確定した。
 なお,フランチャイズシステムに関しては,フランチャイザーがフランチャイジーに屋号,商号の一部の使用を承諾し,事業活動が密接である関係上,①名板貸の責任,②民法上の使用者責任などが併せて追及されることが往々にしてある。
 例えば,コンビニエンスストア業界におけるフランチャイズ契約においては、フランチャイザーは、①についていえば,同一屋号を統一的に使用させ,また,②についていえば,1)一般的に、小売業の素人に対し、販売・売上予測や事業資金計画などを説明して、勧誘した上で、フランチャイズ契約を締結する、2)店舗の名称(当該フランチャイザーの名称のみの使用。別の法人格の徴表を許さない)、内外装の仕様、販売製品、従業員のユニフォーム等、経営に関わる全事項を全店舗において完全に統一して指示した上、経営させる、3)さらにフランチャイズ契約継続中は、例えば、統一した製品であるレジスターを店舗に据え付け、商品の発注、仕入れ、検品、顧客情報など小売店の「営業に関わる全ての情報」を把握し、それらのデータを集積し、整理した上、店舗経営・販売促進等のために様々な指導(商品の設置位置につき棚の上、中、下の指定、設置面積の指定、顧客心理、品質管理、売上額(量)とスペースとの関係等)を行い、日常的に指導、監督する等、フランチャイザーは、フランチャイジーの経営する店舗の経営全般に対し、直接的な指揮監督を日常的に及ぼすことが多い。この点を強調すれば,①②の法的責任を肯定する方向に作用することになろう。
 他方で,本件のような住宅業界におけるフランチャイズでは,フランチャイジーは、①に関しては,使用承諾されたフランチャイザーの商号の一部ないし屋号を前提としつつ,請負契約書等において,自らの独立した屋号,商号を併記し,フランチャイザーとは別人格であることを明確に示し,また,②に関しては,地場で、従前来、経営を行う工務店であることが多いため、フランチャイズ契約後も、自らの商号を前提に、従前の工法、工事をも実施し、それに加えて、フランチャイザーの販売、企画する建築物を請け負うことが多い。
 そのため,コンビニエンスストアのフランチャイズなどよりは,さらに①名板貸の責任,②使用者責任が成立しにくい関係にあるといえる。このような観点から考えた場合,上記判決はまさに正当なものと評価できよう。
 フランチャイズシステムに関しては,フランチャイザーは,合理的な経営の観点から,直販店を各地に設置するのではなく,別の法人格がそれぞれ独立に営業活動を行うことを前提にしつつ,集客力を高めるために一定の屋号,商号を統一的に使用させてブランド価値を高め,かつ,サービスが低下しないようにフランチャイジーに指導等を行う必要がある。
 しかし,他方で,それゆえに,①②の法的責任が追及されるリスクを負担し,ジレンマの陥る状況にある。この二律背反の要素を有するフランチャイズシステムには,今後も同様の問題が生じる可能性があろう。