危機管理・不祥事対応・リコール
震災復興・災害対応・まちづくり支援

東日本大震災・熊本地震に伴い発生した被害対応

 当職が弁護士に就任して3ヶ月目の時点で東日本大震災が,福岡事務所に転勤してから半年の時点で熊本地震が発生しました。その中で地震被害に遭った建物の紛争を複数取り扱いましたが、印象に残る事案をいくつかご紹介したいと思います。

① 【東日本大震災で発生した津波で、出来形が全て流された事案】
 事件の依頼者は、東日本大震災による津波被害が甚大であった、宮城県の沿岸部の都市で事業を行っている工務店でした。この依頼者が、施主からの依頼を受け、新築建物の建築工事を進めていたところ、東日本大震災及びその後の津波によって、上棟が終わっていた出来形が全て流されてしまったという事案で、施主より、契約は履行不能となったので、契約を解除の上、支払い済みの契約金を返金して欲しい、との調停を申し立てられた事案でした。これに対して、当方は、本契約では、約款として旧四会連合の工事請負契約約款を用いていたはずであり、それによれば、不可抗力によって生じた損害については、善管注意義務を尽くしていても、なお発生した損害については、発注者の負担となるはずであるため、津波で流されてしまった出来形の出来高を「損害」と捉え、その分の返金はできない、と争いました。
 当方の依頼者の方では、契約書の控えを作成していなかったのですが、当初、契約書の原本が津波に流されたと述べていた施主は、調停期日までに、契約書の原本を、泥の中から探し出して、持参しました。そして、原本を確認したところ、当方にて前提としていた旧四会連合の工事請負契約約款の添付はなされていないことが確認されました。
 上記の原本確認をした内容を踏まえると、不可抗力によって発生した損害については、民法第536条1項の債務者主義が採用される可能性があり、そのまま訴訟に移行した場合には、施主側の請求が全額認められる可能性も高かったことから、その場で依頼者を説得し、双方の主張する金額の間をとった金額を解決金として返金することを内容とする和解を成立させました。
 本件では、旧四会連合の工事請負契約約款を利用しているはず、との思い込みで、事件処理を進めようとしていましたが、原本の確認がなされることで、その場で、想定されるリスクを洗い出し、急遽、リスクヘッジを行った事案、と評価できるかと思います。

② 【建物が警戒区域に位置していた事案】
 事件の依頼者は,認定こども園を運営している学校法人でした。新園舎として発注していた請負契約の目的物である建物の竣工検査が平成23年3月10日に行われましたが、図面と異なる施工がなされている箇所や、未完成となっている工事が30か所以上確認されたことから、翌日から手直し工事や工事の続きを施工することとされていたのですが、その翌日、東日本大震災が発生しました。そのため、残工事は中断され、依頼者も工務店も、避難生活を余儀なくされました。
 更にその後、建物の所在地は、福島第一原発事故の発生により警戒区域に指定され、およそ立ち入りができない状況となってしまったのですが、そのような中、工務店側より依頼者に対して、残代金から未完成工事分の費用を差し引いた報酬の支払いを求める請負代金請求訴訟が提起されました。
 当職は、本件の建物は、工事が未完成のうちに放射能汚染にさらされたことから建物としての効用を喪失した旨主張し、建物未完成のうちに建物が滅失した場合には、危険負担に関する原則規定である、危険負担の債務者主義(民法第536条1項)より、目的物の滅失に伴い、反対債権である請負人側が取得する報酬請求権も消滅することから、工務店の請求は認められない旨反論し、全面的に争いました。
 なお、この中で特に印象的だったのは、未完成部分が多数あったことの立証のため、特別に申立てを行い、防護服着用の上、協力建築士7名ほどと共に、警戒区域内の建物の調査に行って、報告書の作成を行ったことでした。このとき、危険を顧みずに協力して下さった建築士の皆様には、感謝してもしきれません。
 最終的には、依頼者は、別途、東京電力に対して損害賠償請求を行っていましたので、そこでの請求権を上手く調整弁として利用して、双方納得する形で和解終結しました。

③ 【美術品の収納棚を設置する工事請負契約の債務不履行を主張され、損害賠償請求を受けた事案】
 依頼者である工務店は、芸術家である発注者との間で、アトリエのリフォーム等に関する請負契約を締結し、施工をしたところ、発注者が上記契約に係る工事の内容として発注者所有の収集品を収納するための収納棚を設置するに際し、収集品の落下を防止するなどの地震対策措置を講じなかったために、平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって、収集品が破損する被害を受けたとして、債務不履行に基づく多額の損害賠償請求を受けたでした。
 当方は、「収納棚を設置するに際し、収集品の落下を防止するなどの地震対策措置を講じる合意があったのか」との争点を前面に出し、そのような合意が形成された事実経緯は無いことを、詳細に主張しました。
 上記主張に対して、裁判所は、当方主張の事実経緯を全面的に認め、上記合意は存在していなかったものとして、発注者からの請求は棄却されました。
 なお、同結論は控訴審でも維持され、控訴審の判決が確定し、終了しています。