危機管理・不祥事対応・リコール
企業内の犯罪対応(企業・役職員の弁護人就任を含む)

従業員による横領事案対応

 工務店やハウスメーカーの企業法務を取り扱っている中で、お客様から預かった手付金や契約金が、会社に入れられずに、従業員が自らの懐に入れてしまっていたことが発覚する事案というものが一定数ございます。最近では、お客様との間の金銭のやり取りにおいて、現金の直接の授受を禁止し、振込対応とするように変更されている会社が増えたことによって、かなり減ってきているように思われますが、それでも、当該従業員が、顧客に対して「現金で支払ってもらえれば値引き対応できる」などの甘言を弄して、同じような事態を発生させています。
 ほとんどの事例が、最終金の支払いの段階で、お客様の方から「支払ったはずの契約金まで計上されておりおかしいのではないか」との指摘を受けるなどして判明するのですが、このとき、会社としての対応は難しいところがあり、このお客様に対して、「会社は受けとっていないので、払ってください。」とお願いをするのか、それは諦めて、当該従業員からの支払いを求めていくのか、との選択をする必要があります。大半のケースでは、後者の選択をすることとなり、そうなったときには、当該従業員との関係で、
① 懲戒処分の選択
② 被害総額の確定及び支払確保
③ 刑事告訴
といった手続を進めていくこととなります。
 行為自体を認めている従業員の場合には、②の作業においても、当該従業員からの協力が得られるので、比較的スムーズに作業が進み、支払確保のためにも、わざわざ訴訟提起まですることなく、執行受諾文言付債務承認弁済公正証書の取り交わしをするなどして、そこで約定された支払いがなされる限りは③の刑事告訴もしない、といったところに落ち着くことがほとんどです。
 これに対して、横領行為自体を争う従業員を相手にする場合には、①から③の全てで最も厳しい対応をとっていく必要が出てきます。もちろん、それらの手続において、会社側の主張する被害を認定することができるだけの証拠収集をしなければならないことが前提になります。一点、知っておいていただきたいのは、③の刑事告訴手続です。会社の側は、被害を被った立場であるため、一刻も早く告訴を受理して捜査を始めて欲しい、と思うところですが、日本では、警察の腰は非常に重く、なかなか速やかに動いてはくれません。極端な例ですが、当職が6年前に代理人として告訴の申し立てをしていた横領事案では、昨年、ようやく、当該従業員が逮捕され、つい先日、刑事裁判で判決が出た、といった事案もありました。