内田 創
弁護士
パートナー福岡事務所
Yが発注者となって、工事請負業者のXとの間で、設計・施工監理一括請負契約を締結したところ、同契約には、住宅ローンの審査が通らなかった場合には、同契約が白紙解約され、Xが受領済みの金員は全額返金するとの、いわゆるローン特約が付されていました。
ところで、Yは、上記の請負契約を締結後、転職をしており、住宅ローンの審査の申し入れをしようとする時点では、まだ、転職して1か月程度の勤務実績しかないという事情があったところ、初回の住宅ローン審査の申し入れに対しては、金融機関から、審査に通らなかった旨の回答がありました。その詳細な理由については、金融機関からの開示は無かったのですが、Xの担当者にて、Yに対して、まだ、転職して間もなく、勤務実績がほとんどなかったことの影響が大きいことが考えられることを説明の上、別の金融機関にも当たってみることと、もう少し期間をあけた上で、再度の住宅ローンの審査の申し入れをすることを提案したところ、Yからは、その方向で協力する旨の回答がありました。
以上のような経緯でしたが、しばらくして後、急遽、Yは、代理人弁護士を付けて、「ローン特約に該当する状況であるため、受領済みの金員全額を返金せよ。」との通知を送ってきました。Xは、上記経緯を説明の上、この経緯を前提として、全額返金をするのはおかしいとの回答を行いましたが、Yは話し合いの余地無しとして、訴訟提起をしてきました。
当職は、訴訟段階から代理人として対応しましたが、ローン特約の成立を主張するYに対して、ローン特約も、「債務者の責めに帰すべき事由」によって成就した場合(極端な例がローン壊しと言われるような場合)には、当然に、その効力が生じるものではないことを反論の上、本件では、契約締結後に転職したことはY側の事情であること、再度の審査の申し入れをすることを約定していたのに、それが果たされておらず、「債務者の責めに帰すべき事由」が認められること、仮に、それでも契約の終了を主張するのであれば、それは、発注者の都合による解除権の行使に他ならない、との反論を展開し、Xがこれまでの対応に要した人件費などの損害の賠償を求めました。
上記主張を行ったところ、Y側は、紛争を長期化させるのは本意ではなく、X側にて掛かった人件費などの実費を負担して、契約を終了させることができるのであれば、その方向性での解決をしたい、との申し入れをしてきたため、X側として掛かった人件費及び実費の詳細に関する主張及び証拠を提出したところ、Y側もその負担を認めたので、受領済みの金員との生産を行い、和解にて、終結しました。
本件を担当した弁護士