内田 創
弁護士
パートナー福岡事務所
建築の現場においては、現在進行形で工事が進められているという状況下で、訴訟を提起して、判決を求めていたのでは、速やかな被害救済を図ることができないとして、保全処分としての仮処分の申し立てをすることがあります。
当職においても、各種の保全事件を取り扱っていますが、特に、建築工事に関連した2案件のご紹介をしたいと思います。
立ち入り禁止の仮処分の案件は、近隣工事に関わる紛争でした。依頼者のXさんの隣地所有者であるYが、既存建物を解体し、新築建物の工事を開始したのですが、そこでの土留養生が甘く、地盤内の改良工事をしている際に、Xさんの建物を沈下させてしまうという事故を起こしました。クレームを入れた当初は、沈下修正工事をする提案などをしてきていたのですが、その工事内容が、きわめて限定的な一部分に限られており、補修範囲を広げるように求めたところ、任意協議を一方的に打切り、Yは、残りの工事を進めていきました。沈下事故の案件は、別途訴訟で争う必要があるような深刻な案件でしたので、それは別途行うこととしたのですが、Yは、境界からの離隔距離ギリギリの場所に外壁がくるような設計を採用していたため、外壁工事をする際に、職人が、X側の敷地内に入ってくることもしばしばありました。それを受け、隣地に無断で立ち入ることの禁止を求め、その決定を踏まえ、違反した場合には、違約金を支払うことを求めたのがこの事例です。手法としては、間接強制ができるように、越境をするたびに1日当たり1万円の違約金を支払え、との間接強制の決定が出され、以後は、この決定に沿った工事をするよう、Y側に求めることができました。
通行妨害禁止の仮処分は、競売で競落した建物の前面道路が、個人の所有する位置指定道路であったところ、この道路所有者が変わり者で、建物の建て替え工事に入ろうとしたところ、「自分の道路を使用することは認めない」等と、現場で抗議するようになったことから、通行の妨害禁止を求めた事案になります。
被保全債権としては、囲繞地通行権の発生が認められる事案だったため、同通行権を保全するため、との建付で申し立てを行い、裁判所からは、20万円の供託を条件として、通行妨害禁止の仮処分決定が出されました。
最終的には、この供託金をもとに、通行権の地役権設定登記をする交渉を行い、円満な解決を図ることができました。
本件を担当した弁護士