内田 創
弁護士
パートナー福岡事務所
当職が弁護士になった平成22年12月以降、日本国内、もしくは世界的にも、経済に多大な影響をもたらす様々な出来事が発生してきました。「東日本大震災」「熊本地震」「新型コロナウィルスの蔓延」「ウッドショック」「半導体ショック」等、更に細かいものを挙げていけば枚挙に暇がありませんが、これらの大きな動きがあるたびに、一定数の工務店が経営破綻していきます。
当職において、破産申し立てをした案件は、二桁を下りませんが、その中で、弁護士になってから半年程度で取り扱った、非常に印象に残っている案件をご紹介したいと思います。
東京の池袋に拠点を構えて、年間で25棟前後の注文住宅を受注していた工務店だったのですが、確認申請時の偽装で世間を騒がせた姉歯事件の影響から、建築確認が下りるのに時間がかかるようになり、仕入れていた土地が在庫となり、借入に対する利息の支払いが増加したり、平成20年に発生したリーマンショックの影響を受け、平成23年8月の時点では、負債額が約5億5000万、債権者数は約150名という状況に陥っていました。当職には、別の案件での相談で来られていたのですが、そこから財務状況の話になり、次回の支払い日をどう乗り切ればいいのか分からない、という状況であることが発覚し、急遽、破産申し立ての準備をすることとなりました。
悩ましいことに、申立を検討している段階で、8棟の仕掛かり工事が存在しているとの状況でしたが、このまま、無責任に工事を続けて、下請に対する負債額を増やすよりは、加入していた完成保証などを利用して、できるだけ施主に迷惑を掛けない方向で進めていくこととして、すぐに、破産申し立てを行いました。
ただ、通常の破産申立事件などでは、申立の前に、受任した弁護士からの通知が行くなどして、「危ないのかもしれない」ということが、やんわりと周知されているのですが、取り立て騒ぎの発生などが危惧された本件においては、即申立を選択したため、裁判所からの破産手続開始決定後の債権者からの問い合わせも、大変なものでした。
第1回の債権者集会では、50名を超える債権者が出席し、怒号が飛び交う中での説明を行い、裁判所内での手続であるにも関わらず、パイプ椅子が蹴り飛ばされるシーンを見たのは、後にも先にも、この件だけでした(苦笑)。
手続中も、仕掛物件をはじめとした完成保証の発動のために動いたり、債権者対応を重ねたりと、非常に苦労をしましたが、最終的には、異時廃止で終了しました。このときの、会社代表者の安堵した表情は今も忘れられません。
本件を担当した弁護士