内田 創
弁護士
パートナー福岡事務所
判決などの債務名義を取得した後、その内容に従って任意の履行がなされれば、それに越したことは無いのですが、弁護士が介入するに至るような事案においては、判決が出ていたとしても、任意の履行に応じないといったケースが多々あります。
弁護士になって心掛けているのは、そのように、任意の履行がなされなくなったときに、裁判所の執行機関を利用して、いかに、権利の実現を図ることができるのか、どのような手法をとると、最も実効的なのか、という点を意識し、提案するようにしていることです。
最も基本的な執行事件は、金銭執行であり、預金債権の差押や、就業先を見つけ出しての給与債権の差押など様々な選択肢があります。
借地契約において、地代未払いによる立ち退き事案などでは、建物収去土地明渡というなかなかに大事(おおごと)の請求をして、これも、任意の履行がなされない場合には、執行官手配の業者によって、建物解体を実施するなどすることもあります。ただ、その場合、解体費用が割高になる傾向もあるため、執行に至る前に、建物の所有権放棄をさせ、解体することに異議を述べないとの一筆を取得の上、こちらで手配した業者で解体するといったことも視野に入れます。
当職が担当した事案で、上手く強制執行手続を利用することができた事案をご紹介したいと思います。
その事案は、土地と建物が共同抵当に入っていたものの、抵当権者からは、土地のみの競売申し立てがなされ、依頼者が同土地の所有権を取得した、という事案でした。ただし、抵当権設定当時、土地と建物の所有名義人は別人となっていたことから、民法388条の適用ないし準用はないものと解され、法定地上権は成立しないと解される、という事案で、依頼者は、土地の所有権取得後、建物の居住者に対して、連絡を取る努力を続けていたのですが、全く反応が無く、やむなく、建物収去土地明渡請求訴訟を提起しました。
しかし、その訴訟提起後も、全く反応が無い状況が続き(送達は、付郵便送達手続を利用しました)、欠席判決が出て、同判決も確定しました。
依頼者及び当職は、建物自体も、そこまで古いものでは無く、解体するとなると500万円を超えるような高額な解体費用の発生が見込まれたことから、どうにか、建物の所有権を取得するよう、居住者兼所有者を説得したいと考えていたのですが、このように、手続にも出頭してこない、訪問しても出てこないとなると、如何ともしがたい部分があります(ただ、生活をしていそうな痕跡はあったのです。)。
そこで、当職は、建物収去土地明渡の強制執行の前に、なんとか、建物内に立ちいって、居住者兼所有者と話をしたいと考え、金銭債務についても判決を取得したことを利用して、動産執行の申し立てを行いました。動産執行では、建物内の有価物を差し押さえの対象とするため、執行官を伴っての催告や執行時に、建物内に立ち入ることができます(施錠されている場合には、鍵やに開錠をお願いします。)。本件でも、それを目指して動産執行の申し立てを行い、建物内に立ち入ったところ、ようやく、居住者兼所有者と会うことができました。
話しを聞いてみると、数年前に、奥様に出ていかれてから、無気力になってしまい、郵便物もロクに見ていない生活が続いていたということで、確かに、裁判所からの通知なども、全て、郵便物の山の中に埋もれていました。
当職及び依頼者の担当者は、法律上、建物の居住者兼所有者の費用負担で建物を解体し、土地を明け渡さなければならない状況にあることを説明し、その場合には、先方に多額の負担が発生することから、むしろ、建物の所有権をこちらで引き取ることを提案しました。先方は、引っ越し先が見つかるなら、と前向きに回答したため、依頼者にて、借家を見つけ、そこまで手配をすることによって、円満に立ち退いてもらった、という事案でした。
本件を担当した弁護士