有賀 幹夫
弁護士
パートナー東京事務所
被相続人が死亡した後に、被相続人の実兄が、被相続人名義の預金を解約し、その一部を受領したところ、相続人から、同行為が不法行為にあたるとして、受領した金員分及び慰謝料等として約1200万円余の損害賠償を請求された事案。実兄側の被告訴訟代理人として関与した。 本件では、被相続人は、実兄の事業を長年に渡り手伝い、実兄の預金管理、及び実兄がオーナーの企業の出納を担当していたという事情があったが、他方で、実兄側が被相続人に対し具体的に金員を預けた時期、その金額等の特定ができず、また具体的な資料もなかったことから、立証活動は難航を極めた。そこで、被相続人の収入及び通常考えられる支出の概算を特定し、被相続人名義の預金の出捐者が実兄側以外にあり得ないこと、被相続人と仲の良かった従業員から詳細に事情を聴取し、証言によって被相続人の暮らしぶり、金遣い等を明らかにし、さらには、実兄側の会社は国税調査を受け、同調査の結果、多額の使途不明金が判明しており、同不明金発生時の現金保管、管理者が被相続人であったこと等の事実を、細やかに立証したところ(他方で、相続人側は被相続人の生活実態、現実の収入を全く把握していないことが判明した)、第一審は、原告相続人の請求を全て棄却する判決を下した。 これに対し、相続人は、控訴したところ、控訴審では、被相続人の配偶者及び子との間の出来事であるので早期に解決するという観点から、金100万円を支払うことで和解した。 実兄の金員であることを直接証明できる証拠がなかったため、非常に困難な案件であったが、いわゆる間接事実を丁寧に積み上げ、それが功を奏した点で、希有な事例といえる。
本件を担当した弁護士