土木
土木分野に関する訴訟

隣地の盛土造成工事により被害者所有の建物が不同沈下したことに基づく、隣地地権者らに対する損害賠償請求訴訟事件

 被害者宅隣地の地権者らが、第三者の業者に自らの所有地(田・畑)上に盛土工事を依頼したところ、この盛土工事により圧密、引き込み沈下が生じ、被害者宅が最大14.12/1000程度不同沈下した事案。問題を起こした業者は夜逃げしたため、被害者は問題のある盛土工事を依頼した地権者らを主とした相手として、(1)盛土は、土地工作物である(民法上の土地工作物責任:無過失責任)、(2)地権者らは盛土対象地が軟弱であり大量の盛土をすれば沈下等の危険が生じることを認識し得たのであるから、危険防止策を確認した上で工事を行わせるべき注意義務がある(過失責任)などを主張して賠償を求めた。被害者側の原告訴訟代理人として関与した。
 法律論からすれば、地権者らは直接盛土工事を行った当事者ではなく、盛土工事に関する専門的知識もないため、不法行為責任が認められる原則的要件である「過失」を立証するためには、大変大きな「壁」があり、また盛土工事前に、同様に軟弱地盤の上にあった被害建物のレベル関係も不明であったため、盛土工事と不同沈下との間の因果関係も争われることとなった。
 そのため、(2)のように直接的な過失を立証するか、(1)のように盛土は土地工作物であると主張し(土が土地工作物というのは理論上十分可能と考えていたが、理解され難い側面もあると思われた)、民法717条に基づく損害賠償請求をする他は方途がない状況であり、(3)因果関係については、如何にして客観的な証拠を収集できるかが大きな問題であった。
 訴訟においては、(1)につき、盛土対象地盤の状態(軟弱地盤性)、地権者らにおいて土木建築の知識はないにせよ農業と関わりを有していれば軟弱地盤の上に大量の盛土をすれば何らかの影響が生じ得ることは認識できること(豆腐の上に指をおいていただきたい。周辺も指を中心にクレーター状に凹むはずである)、当該問題業者が無料で工事を行うとの約束であったことからみれば(このようにして不法投棄をする業者は現実に多い)、有償を前提とする適正な工事が行われないおそれがあったことなどの事情を、建築土木の専門家等の力も借りて、主張、立証したところ、判決では、被告地権者らの直接的な「過失」が認められることとなった。
 また、(3)については盛土工事前の被害建物の具体的なレベル関係は当然のことであるが不明であり、被害建物も軟弱地盤上にあったため、盛土工事と被害建物の不同沈下については因果関係も争われたが、同種被害を受けた近隣の建物所有者の協力を得ることができ(精密工場であったため、レベル差には非常に敏感であった)、また、盛土工事後の一時点においてレベルを計測し、さらにその約1年後に同一の場所、方法でレベルを測定したところ、沈下傾向が進行していることが確認できたことから、判決では因果関係も肯定された。
 但し、具体的な損害額については、再建築費用までは認められず、沈下した被害者建物の時価相当額という判断であり、一部認容に止まった。同金額では、安心できる家屋に再び居住するための補修工事を実施することができない。損害の形式的な時価評価という一律の基準は、居住用建物については生存権を脅かすものとして不適切と強く感じるところであり、控訴提起を検討したが、被害者側は判決内容に納得したため、訴訟外で和解し、控訴は提起しないこととなった。