滝澤 啓太
弁護士
アソシエイト東京事務所
第1 判決年月日及び事件番号
1 第1審
前橋地方裁判所令和3年3月12日判決
平成28年(ワ)第85号 損害賠償等請求事件(本訴事件)
平成29年(ワ)第36号 損害賠償反訴請求事件(反訴事件)
2 控訴審
東京高等裁判所令和4年2月16日判決
令和3年(ネ)第1951号 損害賠償等,損害賠償反訴請求控訴事件
第2 当事者
1 原告(反訴被告):施工者(依頼者)
2 被告(反訴原告):発注者(市)
第3 事案の概要
1 本訴事件
本訴事件は,市(発注者)が,施工者(依頼者)に発注した運動場造成工事に関し,下記※を前提に,施工者に対し,1年間もの長期にわたる指名停止を講じ,併せて記者発表をした結果,下記※や指名停止が各報道機関により報道されたことに端を発する。
施工者は,下記※は事実と異なり,指名停止や記者発表は違法であったとして,市に対し,国家賠償法第1条第1項に基づき損害賠償請求を行った。
2 反訴事件
反訴事件は,市が,施工者に対し,下記※に基づき,転石等除去と転圧費用の損害賠償及びブロック積擁壁の補修費用の損害賠償を各々請求した事件である。
※市側の主張
①降雨の影響によりブロック積擁壁の一部が倒壊したことは,ブロック積擁壁 背面の盛土の転圧不足と,水抜きパイプの裏面に設置した裏込材の詰まりを防止するためのテープを適切に処理しなかったことにより,ブロック積擁壁背面に溜まった雨水が排除されなかったことが原因である。
②設計で見込んでいないにもかかわらず,他現場からの転石等の建設残土を,監督員との協議を経ずに搬入した。
第4 判決主文(抜粋)
1 第1審判決(前橋地方裁判所令和3年3月12日判決)
⑴ 本訴事件
1 被告市は,原告施工者に対し,100万円及びこれに対する平成27年11月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告施工者のその余の請求を棄却する。
⑵ 反訴事件
被告市の反訴請求を棄却する。
2 控訴審判決(東京高等裁判所令和4年2月16日判決)
⑴ 本訴事件
1 本訴請求についての第1審原告の控訴に基づき,原判決主文第1項及び第2項を次のとおり変更する。
2 第1審被告は,第1審原告に対し,520万0962円及びこれに対する平成27年11月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第1審原告のその余の本訴請求を棄却する。
⑵ 反訴事件
第1審被告の控訴を棄却する。
第5 主な争点
1 施工者が他現場から建設残土を搬入した際に市監督員の了承を得ていたか否か
2 降雨の影響でブロック積擁壁の一部が倒壊したことと,市が主張する各原因との相当因果関係の有無
3 転石等を含む建設残土を盛土に使用したことの瑕疵該当性
4 市による指名停止や記者発表の違法性の有無
5 違法な指名停止や記者発表による施工者の損害額
第6 各争点に対する判決の内容
1 争点1について
第1審判決において,市の監督員は,工事の当時,「施工者が当初の計画にはなかった外部土砂の搬入を行っていたことを認識しながらこれを容認していたものと認めるのが相当である」と認定された。
2 争点2について
第1審判決において,「本件では,本件擁壁の水抜きパイプの多くが閉塞したままの状態であったという要因があっただけでも本件擁壁の一部が倒壊したとの立証があるとはいえないし,また,水抜きパイプの閉塞以外の要因だけでは本件擁壁の一部が倒壊するとはいえないとの立証があるともいえないというべきである。そうすると,本件擁壁の水抜きパイプの多くが閉塞したままの状態であったということが本件擁壁の一部が倒壊したことの一因になったことはあり得るとしても,結局,本件擁壁の水抜きパイプの多くが閉塞したままの状態であったということと本件擁壁の一部が倒壊したこととの間に相当因果関係があるとまでは認められないことに帰する」と認定された。
3 争点3について
第1審判決及び控訴審判決において,「各文献によっては,本件多目的運動場において直径30㎝以上の転石等を使用することが許されないとの技術的知見が存在することを認めるには足りず,その他,本件記録をみても,上記の認定を覆すに足りる文献は見当たらない」,「直径30㎝を超える転石等が含まれている土砂を使用した場合であっても十分な転圧をすることができないとまでは認めることができない」,「本件工事において使用するものとして直径30㎝を超える転石等を含む土砂は,通常要求される技術水準に照らし瑕疵に当たるということはできず」等が認定された。
4 争点4について
第1審判決において,「その発表の内容の主要な部分が真実であるといえず,被告市において当該事実を真実である信用したことにつき相当の理由があるともいえないものであり,しかも,真実であることの確認が不十分であってこれも公表すべき必要性ないし緊急性があったとはいえない」,「被告市が本件記者発表をしたことは,正当な目的のための相当な手段であるとはいえず,国家賠償法1条1項の違法」,「被告市が本件指名停止の理由とした本件基礎事実のうち認めることができるのは,水抜きパイプの閉塞の瑕疵のみであり,しかも,同瑕疵と本件擁壁の一部が倒壊したこととの間には相当因果関係があるとはいえない」,「本件記録を見ても,上記の瑕疵が故意によるものと認めるべき証拠は見当たらず,その他の瑕疵も認められないことに照らせば,『極めて悪質な事由がある』と認めるに足りる事由があると判断することは困難であるといわざるを得ず,本件指名停止の打ち6か月を超える部分については,その裁量権を逸脱し,又はこれを濫用するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法」等,違法性があると判断された。
5 争点5について
第1審判決及び控訴審判決において,「本件記者発表による損害としては,100万円を認めるのが相当である」,「(引用者注:違法な指名停止による)逸失利益の算出に当たっては第1審原告の売上総利益(粗利)を基礎とすることが相当である」,「(引用者注:違法な指名停止による)第1審原告の逸失利益は,以下のとおり420万0962円となる」,「第1審原告の本訴請求は,520万0962円及びこれに対する平成27年11月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある」等と判断された。
第7 本件に関する報道
https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/80004(上毛新聞)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00128/040100001/(日経クロステック)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/01238/(日経クロステック)
第8 第1審判決書
https://www.city.shibukawa.lg.jp/manage/contents/upload/6056ed76e61cd.pdf
本件を担当した弁護士