有賀 幹夫
弁護士
パートナー東京事務所
建築条件付き土地を購入した買主が,住宅ローンを利用した土地代金の決済を行うことなく,建築工事に関し,理由のないクレームを主張し始め,建築途中の建物を建て替えるよう主張するに至ったため,売主は,土地売買契約及び建築工事請負契約を解除した。しかし,買主は納得しなかったことから,平成18年に調停手続が行われたが,協議は決裂し,不調に終わった。今般の事案では,買主は,解除を承認しないだけではなく,建築途中の建物を解体撤去し,当該土地を更地にした上で,さらに売主所有の隣地をも極めて低廉な価格で自らに売るように強弁していた。これは,実質的には,建築工事途中の建物代金は一円も支払わない,途中建物は業者側で取り壊せ,土地は2筆を1筆分で売り渡せということであったため,このような提案では当該売主側には数千万円の損害が発生する。当然業者側においてこのような提案を応諾することは出来ず,契約解除の主張を堅持した。
買主は,①土地売買契約及び請負契約は有効に存続していることの確認及び②土地建物の引渡まで1日3万円もの金員の支払い(3年以上経過していたため,莫大な金額となる)を求めて訴訟を提起した。上記事件に関し,被告売主・業者側の訴訟代理人として関与した。
上記における土地売買契約おいては,一定の期限までローン承認ができなかった場合の自動解約条項が存在したことから,契約上は本来であれば自動解約条項(ローン条項)が発動できる時期が到来したならば,一方的に打ち切って良かったのであるが,売主・業者側は,業者としての好意から,その後も,建築工事に関し買主側と打ち合わせを行い,工事を継続していた事実があった。そのため,自動解約のみで解除構成をとると,この好意が逆手に取られ,「その後,契約を継続することを前提とした行為を行っているのであるから,自動解約は使わないという合意が成立している」と主張され不利な状況で防御活動を行わざるを得なくなることが予想された。他方で,訴訟の過程において,ローン手続を行うべき義務を買主は負担していたにもかかわらず,実は,一旦申請をした後にローンを取り下げ放置していた事実も判明した。但し,手続上,「履行するよう催告」が必要となるところ,同催告は,担当者の口頭で実施したとの証言しか証拠がなく,書面が存在しない状態であった。加えて,当該訴訟では,当該建物には看過し難い瑕疵があり,当方の解除権行使は,同瑕疵を指摘したことに起因するものである以上(本来同事実はないが),当方の契約解除が権利濫用であるという趣旨の主張も展開された。
これらの種々の事情を考慮し,上記裁判では,①自動解約条項の援用,②ローン手続義務を不当に怠っておきながら,その隠し,ローン手続中であるかのごとく装っていた点を捉え,債務不履行解除,③当該請負契約約款の特則に基づく解除という構成を立てて(受領済みの金員の倍返しで解除できる特約),解除権行使の正当性を主張した。
建築瑕疵も争点として取り上げられたことから,一級建築士の協力を得ながら反論しつつ,上記主張を展開し,証人尋問,本人尋問を経て判決ということとなった。
判決では,①②の構成は採用されなかったが,相手方の瑕疵の主張は論破でき,③が認められ,当方勝訴で判決は無事確定した。事実関係が錯綜し,双方の対立が激しい事件であったが,相手方の提出する陳述書,供述では,売主に対する誹謗中傷,虚偽の事実が繰り返された経緯があり,他方で,当方は,それらに対し,客観的な知見,証拠により論破できた。
これらも相手方の権利濫用の主張を排斥できた勝因と思われる。
なお,①②の構成が判決で採用されなかったのは,事実認定が,言った言わないの問題に帰着したことが原因である。裁判所の業者に対する要求水準は高いため,必要な事項に関してはきちんと書面化していなければ,裁判所より認定してもらえないことが多い。本件に即して云えば,例えば,ローン条項による自動解約期間が到来したにもかかわらず,特に,自動解約をせずに,工事を続行するのであれば,厚意を逆手に取られることがないように,その段階で直ちに「●●までは延長する。但し,●●までに・・・をしなかった場合には,約款第●条による自動解約とする」と云う趣旨の合意を都度,別途,取り交わす,債務不履行解除の要件として約款上「催告」が必要であれば,内容証明郵便にて「催告書」を送付するといった,措置が必要ということである。
本件を担当した弁護士