萩野 貴光
弁護士
パートナー名古屋事務所
1 事案の概要・争点
建築業者が注文者との間で新築住宅建築工事の請負契約を締結し,打合せ・工事を進めていたところ,注文者から小屋裏規定を超える天井高にするように執拗に求められ,建築業者は止む無くこれに応じ,施工を実施した。その後,注文者から,違法建築である等として建替え費用相当額の損害賠償請求がなされた。当職は建築業者側の代理人として対応した。
2 当方側の主張
当方は,注文者は小屋裏規定違反になることを十分に認識したうえで建築業者に施工内容の変更を執拗に求めていること,瑕疵とは請負契約で定めた当事者間の合意内容と異なる施工がされたことをいうが,注文者と請負人との間で建築基準法令に違反する建築工事の施工を合意した場合,請負人が当該合意内容に基づいて建築基準法令に違反する建築工事の施工をしたとしても,法令違反の瑕疵には当たらないと解されること等を主張した。
3 裁判所の判断
(1)原審:地方裁判所(注文者:原告,建築業者:被告)
原審は,「原告は,本件新築契約の締結当時,小屋裏規定の内容を知っており,小屋裏規定によれば本件建物が3階建てとして取り扱われることになる場合,建築基準法によれば,本件建物の安全上必要な構造方法が構造計算によって確かめられる安全性を有することが求められることを知っていたものと推認することができる。しかるに,原告は,本件新築契約に基づく工事開始の後,床を設置して物置等の水平投影面積を増やし,天井高さを上げるような指示をしたものであるが(前記認定事実(5)),被告会社に対して本件建物について構造計算をすることを求めた形跡はない。そうすると,原告と被告会社は,遅くとも原告が上記の指示をした時点までに,小屋裏規定によれば本件建物が3階建てとして取り扱われることになる場合であっても構造計算をしないことを合意していたものと推認することができる(本件建物が3階建てとして取り扱われる場合,構造計算のために費用及び期間を要するのみならず,構造計算適合性判定を受けなければならず(建築基準法6条5項, 6条の3),プランが制約を受けることから,原告において構造計算を避ける了解可能な動機があるといえる。)。」等として,法令違反となる施工であったとしても,その合意があるとして瑕疵該当性を否定し,上記論点について当方の主張を採用する判決となった。
(2)高等裁判所
高等裁判所は,基本的に原審を支持するものとした上で,証人尋問における注文者の不合理な証言等に言及しつつ,「一審原告は,図面のやり取りの中で,一審被告会社から小屋裏規定や構造計算の要否に関する説明を受け,着工後,小屋裏規定に違反することを認識しながら,一審被告会社に対し,上記各指示をしたことが推認される。」と認定し,また,「ー審原告は,仮に一審原告に不適当な指図をしたと評価される言動があったとしても,その指図は建築基準法に違反するもので,一審被告らは,当然そのような指図が不適当であることを知りながら,一審原告にこれを告げなかったのであるから,一審被告会社は,民法636条ただし書により瑕疵担保責任を負うと主張する。しかし,既に説示したところによれば,一審原告は小屋裏規定に反することを熟知しながら,一審被告会社に小屋裏規定に反する施工をするように指示したものであって,一審被告会社が改めて小屋裏規定に反すると告げる必要は乏しく,仮にその旨を告げたとしても,一審原告が上記指図を止めることは考え難いということができる。そうすると,本件は,民法636条ただし書が適用される場面とは解されず,一審原告の上記主張は採用できない。」として,原審どおり,法令違反となる施工につき瑕疵該当性や民法第636条ただし書の適用を否定し,上記論点における建築業者の責任はないものと判断した。
本件を担当した弁護士