設計
設計関係争訟

可動床式プールの設計責任が問われた事案

地方公共団体である原告が、プールの設計業務を委託した被告に対し、可動床式プールの耐荷重が委託の趣旨に沿った仕様となるように具体的に説明をすべき義務があったにもかかわらずこれを怠ったことが不法行為に当たる等の主張をして、損害賠償請求をした事案である。当方は設計者代理人に就任して、事件を争った。
裁判所は、地方公共団体側と設計者との間に知識偏重がないことや、事実関係を丁寧に認定の上、地方公共団体の請求をすべて排斥した。
また、本件では、地方公共団体の主張する説明義務の構成が、設計者側に過度な忖度を求める内容に受け取られたことから、この点について強く反論したところ、判決では、地方公共団体と設計者との間のコミュニケーションについて、「本件プールで予定される使用人数や使用態様といった、委託者である控訴人が本件プールに求める仕様は、受託者である被控訴人において当然に了知することはできないものであるから、これは控訴人から被控訴人に伝えるべきものであり、さもなければ控訴人が求める仕様に適合したプールの設計は望むべくもない。また、控訴人にとって、その伝達も容易にすることができたはずのものである。」とした上で、「しかるに、被控訴人の説明義務違反をいう控訴人の主張は、総じて、控訴人が、本件プールで予定される使用人数や使用態様といった情報を被控訴人に伝えることを怠り、本件プールの設計上の積載荷重がプール使用時に約3000kgであることを被控訴人から伝えられた後も、これが本件プールで予定される使用人数や使用態様に適合するか否かについて自ら確認することも、被控訴人に尋ねることすら怠っておきながら、その結果、本件プールが控訴人の求める仕様を満たさないものとして建設され、その使用によって不具合が生じたからといって、その責任を被控訴人に転嫁しようとするものであり、明らかに不合理なものであって、採用することができない。」とした。
地方公共団体による設計者とのコミュニケーション不足を厳しく断じた事例である。