商取引・ビジネスロー・競争法
商法

商法526条の検査・通知義務違反をもって、プレカットの誤カットに対する損害賠償請求を退けた事案

 依頼者A社は、木材等の販売を業とする会社であるところ、相手方Y社は、建設工事の請負業者である工務店でした。依頼者A社は、相手方Y社より、とある現場の木材をプレカットの上、搬入する発注を受けたため、さらに別業者B社に依頼の上、木材のプレカット加工をしました。同加工の際、背割り面が、指示を受けていた方向と異なる方向で加工されてしまっていたのですが、依頼者A社もそのことに気が付かず、また、相手方Y社もそのことに気が付かずに上棟を終えました。上棟後1週間程度経過し、屋根まで施工された時点になって、相手方Y社より、背割り方向の誤りを指摘されました。その後、施主であるXも含めて、補修方法に関する協議が、重ねられましたが、Xからは、建て替えをして当然、といった話しかなされなかったために、協議は平行線を辿り、やがて決裂しました。Y社は、自らの負担で手直しを実施したようでしたが、やがて、納品した木材に対する支払いを拒絶し、また、補修等の費用として過度の請求がなされるようになったため、訴訟手続で解決を図る他無い、との判断の上、A社より、木材の代金支払請求訴訟を提起しました。これに対して、相手方Y社からは、完全給付義務懈怠を理由とする損害賠償請求の反訴を提起され、そこで、補修費用などの請求がなされました。
 当方は、①背割り方向が誤っていたとしても、法的に「瑕疵」と評価されるものではないこと、②相手方からの背割り方向誤りの指摘は、あまりに遅い時点でなされており、商人間の取引である以上、速やかな検査・通知義務が果たされていない以上、瑕疵担保責任は追及し得ない、との主張を行い、相手方の反訴請求を全面的に争ったところ、一審では、当方の代金請求を全額認容し、相手方の反訴請求を、商法526条に基づく検査・通知義務違反があったことから、瑕疵担保責任の追及は認められず、全部棄却するとの完全勝訴判決が得られました。
 控訴審では、上記判決を前提としつつも、早期解決の観点、及び相手方の納得を得るために(当方がミスをしたことは事実であるため)、当初の代金請求額から一定程度の減額をし、相手方から当方に支払をしてもらうとの内容で和解を行い、無事、解決しました。
 この事案では、納品されたプレカット材に、既に背割り方向の誤りという状態が存在した以上、速やかに、その誤りを指摘し、やり直しをするにしても、その時点で行っていれば、損害が拡大しなかっただろうとの価値判断も働き、商法526条に基づく検査・通知義務違反が認められたものと思われます。この業界では、参考になる裁判例と言えます。

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