住宅・建築
瑕疵担保責任・契約不適合責任

共同住宅の新築工事の完成・引渡後に,漏水事故が発生したことにより不動産価値が下落する損害を被ったとする損害賠償請求が排斥された事案

 本件は,原告が,共同住宅の新築建物の新築工事を注文し,建物の完成・引渡しを受けたが,共用部分の廊下天井において漏水事故が発生したことにより,不動産価値の下落という損害を被ったとして,請負契約の担保責任に基づいて,損害賠償請求を求めた事案である。

 原告は,施工不良が原因で共有部分の廊下天井からの漏水が発生し,それによって,天井部分の照明器具に漏電が生じ,共用部全体が停電するなどの大規模な事故に至ったことを踏まえれば,本件建物を売却する際には,当該事故履歴を説明することは避けられない。買主は,この説明を受ければ,当然,一定の減額を要求するところ,一般的に,建物と土地の購入価格の3パーセントから5パーセントの減額は免れないから,原告には,同額の損害が生じている。と主張した。

 これに対して,被告からは,
➀ 漏水事故に関しては,既に修繕工事を完了しているため,建物の財産的価値は回復していること。
② 漏水事故が一度発生した事実をもって,他の施工箇所に関しても,施工不良が存在し,漏水が生ずるのではないかという不安は極めて抽象的な内容であって,その後に同種事故が発生していないことを踏まえれば,法的保護に値する合理的な不安であるとはいえないため,心理的瑕疵にも該当しないこと。
➂ 仮に,他の施工不良が発見された場合であっても,当該箇所に関しては,被告による保証が付されており,別途対応が講じられるものであるから,本件の事故によって生ずる損害として,他の施工箇所に関する不安を考慮することはできないこと。
 を指摘して,原告に反論し,請求の棄却を求めた。

 裁判所は,上記①ないし③の被告主張を認めた上で,原告において「近い将来において支出を伴う損害が想定されるものではないことからすると,本件漏水事故により現実の財産的損害を生ずるものではないというべきである。」と判示して,原告の請求を棄却した。

 漏水工事に対する補修対応の経験を有する建物と,補修対応の経験がない建物とを比較すると,市場価格において,何らかの差異を生ずるのではないかという感覚を抱きやすい。確かに,売買交渉において,その点を考慮した減額要請がなされることも想定できる事柄ではある。
 上記の点を財産的価値の下落であるとした原告の主張に対して,被告からは,抽象的な不安に留まる事項に関しては,請負契約の担保責任を負う心理的瑕疵には該当しないとの原則論を確認した上で,今後の同種事故発生の具体的な危険が確認できないこと,また,万一そのような事故が生じた場合であっても被告による対応が保証されていること,等の事情を丁寧に主張した結果,裁判所は原告主張を棄却した。
 漏水履歴のある建物と漏水履歴のない建物とを比較すると,一定の価値の下落自体は発生しているという感覚的な把握に依拠して,一定額の損害を認める事例も存在する中で,損害が発生しないとして,請求棄却の結論を得た点で,特徴的と言える。

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