有賀 幹夫
弁護士
パートナー東京事務所
会社に対して反感を有する従業員らのうち一人が,自らが会社から支給されていた業務用PCデータの全て及びWebページで広告されていた会社の実績情報の大半などを削除した。そこで,当該会社は,当該従業員(退職)に対して,訴訟を提起した事案である。
会社側の原告訴訟代理人として関与した。
本件では,情報データの削除に関し,①抹消権限の付与の有無(会社の承諾の有無),②抹消行為の社会的相当性,③損害額などに関し,熾烈に争われた。
①抹消権限の付与の有無に関しては,事実認定の問題であったため,この点については原告代表者の尋問,被告本人尋問等が行われ,裁判所によって信用性が評価された。②抹消行為の相当性については,仮に,たとえ多少不正確な情報や違法な事柄に関する情報であっても,容易に「修正」が可能であれば一従業員の判断で不当に「抹消」して良いということにはならない旨主張し,裁判所も概ねこれを肯定した。③損害額については,専門業者によって情報を復旧する費用全額が認められ,かつ,Webページ上の会社の実績情報が当該会社にとって唯一の営業ツールであったことから,逸失利益の一部が損害として認められた。
IT技術が普及した現代社会において,コンピュータ情報が業務に占める割合は大きく,担当従業員によって,会社の財産ともいうべき情報が不当に抹消されることが許容されては,経済社会は成り立たなくなる。当該会社のWebページ上で公開された会社実績情報は,極めて重要な営業ツールであったことから,逸失利益が一部しか認められなかった点については不満が残るものであったが,情報の重要性を適切に評価し,逸失利益を一部ではあっても認め,かつ,PC本体の価格を超える情報復旧費用を全額,損害として認めた点については,情報データの重要性が適切に反映されたものと理解できたため,概ね常識にかなった結論と考えている。
本件を担当した弁護士