人事・労務
労使紛争対応

退職した従業員からの未払残業代請求事案

 退職した従業員が、未払い残業代や退職金、不当解雇に基づく慰謝料請求権が存在するとして提起してきた訴訟案件の対応になりますが、残業代に関しては、当該従業員が極めて多数の遅刻をしていたこと、勤務中も怠業が著しかったこと、退職金相当金の請求については、会社に退職金規程が存在せず、今まで交付していた実績もないこと、不当解雇との主張に対しては、当該従業員は、退職する1か月前にほぼ全ての有休を消化し、円満な退社をしていた等の反論を行い、全面的に争いました。
 上記遅刻の主張に関しては、主張を裏付ける適切な証拠が存在せず、他の従業員の証言を証拠とするしかないように思われました。しかし、会社側で作成していた社内におけるグループウェアの中の全社員情報共有BBSへの報告メールにて、当該従業員が遅刻した際に報告メールを送っていたことがある(他の従業員に対する情報提供として)との話を聞きつけ、当該従業員に関する報告メールを全て復旧してもらい(退職時に削除していたものを復旧していただいた)、当該従業員の遅刻に関する報告メール約120件分を証拠として提出しました。
 同証拠の提出により、裁判所は、雇用者側が主張している遅刻の主張に沿う心証を形成したものと思われ、証人尋問を行う前に、裁判所より、早期解決の観点から、50万円の解決金の支払いを内容とする和解案を提示され、同内容での和解が成立しました。
 時間外労働賃金を求める紛争は多いが(最近では、過払いバブルの次は、残業代バブルだ、等と揶揄する声もあるほどです。)、訴訟まで発展した場合には、雇用者側としては、遅刻や怠業の主張を積極的に展開していくことが必要であるとともに、同主張を裏付ける証拠を確保しておくことも重要であることを認識させられる事件でした。
 なお、残業代に関する請求権は労働債権の一つと解されており、従前は、労働基準法に設けられていた2年間の短期消滅時効の適用を受けるものと解されていたため、どんなに遡っても、過去2年分の請求を受けるまでで済んでいました(それ以上、過去のものの請求をされた場合にも、消滅時効の援用が認められていました)。しかし、2020年4月1日に施行された改正民法において、時効期間の統一が図られ、短期消滅時効制度の撤廃が行われたことに伴い、労働者を守るために制定されているはずの労働基準法が、民法で定められている消滅時効期間よりも短い期間を設定し、労働者の権利を喪失させても良いのか、との問題意識のもと、現在、上記2年間の消滅時効期間については、暫定的に年数を長くしていく方向での法改正がなされています。そうなってくると、今後は、2年よりも長い期間の残業代の支払いを求められる(想定される最長は5年)リスクがありますので、そもそも残業をさせない労務管理と、させた場合にも、未払いを生じさせないよう、しっかりと残業代の支払いをしていく体制づくりが必要となってくると思われます。

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