不動産取引
売買・仲介

不動産売買における仲介業者の隣地及び隣家に関する近隣への聞き取り等の調査義務(媒介契約上の調査義務)が否定された事案

1 事案の概要・争点
 本訴訟では、不動産売買契約において、①対象物件の隣地につき所有者相続人が不明であることや②隣地が空き家状態であることについて、仲介業者たる宅建業者が事前の調査義務を負うか、という点が主たる争点とされた。

2 当方側の主張
 仮に、何ら依頼者の不利益事情を示す事情がないにも関わらず、取引の都度、一律に隣地所有者に聞き取り調査を行わなければならないと解すると、あまりにも経済合理性を欠くものであり、およそ合理的ではない。
 この点に関連し、隣地建物の越境や傾斜に関する仲介業者の説明義務違反が争点とされた事案において、東京地裁平成26年9月12日判決は、「……本件において、被告が、本件隣地建物の所有者や占有者への聞き取りを行っていれば、本件隣地建物の傾斜の事実は、判明した可能性はある。しかしながら、土地の売買契約の仲介に際して、常に隣地の所有者等に対しての聞き取り調査を行う義務まで仲介業者にあるとはいえないし、上述したような本件売買契約当時の事実関係の下で、被告担当者が本件隣地建物の傾斜や越境を疑うことは困難であったから、本件売買契約に先立って、被告が本件隣地建物の所有者への聞き取り調査や下げ振り測定を行わなかったからといって、善管注意義務違反ということはできない。」と判断している。
 そのため、疑うべき事情がないにもかかわらず調査を実施する義務が存しないことは明らかである。
 本件において、当方は、上記①及び②の事情について、売主からも聞かされておらず認識していなかった。また、現場の状況からしても、隣地所有者が不明であることや空き家であることを疑うべき状況でもなかったのであり、当該事項について調査すべき状況にはなかった。

3 裁判所の判断
 裁判所は、「……敷地を撮影した写真の中には2階から1階への縦の雨樋いに草がからまって生い茂る隣家が映り込んでいるもの……も存在する。しかし、当該隣家の外壁、窓及び屋根などは一見して比較的新しく、管理の行き届いていないような外観もなく、老朽化とはほど遠い状態にあり、空き家や所有者不明を連想させるものとはいえない。」と認定した。
 その上で、「隣家が空き家で隣地の所有者相続人が不明であることについては、それをうかがわせるような外観が存在したことを認めるに足りる証拠はない。前記認定のとおり、隣家の外壁、窓及び屋根などは一見して比較的新しく、草が2階から1階への縦の雨樋いにからまって生い茂ってはいるが管理の行き届いていないような外観を呈しているものでもなく、老朽化とはほど遠い状態にあり、空き家や所有者不明を連想、させるものとはいえない。このような場合に、仲介業者が隣家が空き家かどうか、所有者相続人が不明かどうかを調査すべき媒介契約上の義務を負うものではなく、これと同様の内容の不法行為法上の注意義務を負うものでもない。」と判断し、当方の主張が採用された。

同分野の案件実績