永瀬 英一郎
弁護士
パートナー東京事務所
1 事案の概要・争点
本件は、原告(注文者)が、本件建物の新築工事を施工した被告(請負人)に対し、本件建物の基礎の下に隙間があり、敷地の一部が陥没していることが、請負契約の内容に適合しないとして、契約不適合責任に基づく履行の追完として、陥没部分及び本件士地と本件建物の基礎との空隙部分の補修工事をすることを求めた事案である。
当事務者は被告の代理人として訴訟を追行した。
2 当方の主張
・本件土地の陥没や空洞の発生といった、本件土地の品質や性能に関する点について責任を問うべき相手は、本件土地の売買契約の売主であって、被告ではない。
・被告は、本件土地全体の地盤調査をしたり、本件土地に陥没・空洞が生じないように対応すべき義務を負うものではなく、被告が、戸建て住宅等の建築の地盤調査方法として標準的なSWS試験の結果に基づき、地盤改良工事をしなかったことに誤りはない。
・本件各空洞や本件空隙は、本件建物の美観や利便性に関する問題ではない。また、本件各空洞や本件空隙によって本件建物に損壊や倒壊の危険があることについての客観的な根拠はない。
3 裁判所の判断
裁判所は、概要以下のように判断し、原告の請求を棄却した。
・本件土地の空洞や空隙の発生原因について、本件土地の地中に埋設された木材や樹木が炭化したことにあるが、本件土地に木材や樹木が埋設されたことを疑わせるような事情があったとは認められないこと、通常、畑の地中に木材や樹木が埋設されていることは想定し難いことから、被告が本件新築工事を施工するに当たり、本件土地の売主及び本件土地の近隣住民に対し、本件土地の来歴、使用状況を聴取すべき義務を負うことが本件請負契約の内容になっていたとは認めることができない。
・上記の事情からすれば、被告が、本件請負契約に基づく本件土地の地盤調査に際し、 SWS試験だけでなく、地中レーダー調査を併用して地下構造や埋設物の位置を調査すべき義務及び水等の排水方法として雨水浸透枡を避けて他の方法を採用すべき義務を負うことが本件請負契約の内容になっていたとは認めることができない。
・原告は、本件各空洞及び本件空隙により本件建物の美観及び原告らの日常生活の利便性が損なわれている、本件各空洞及び本件空隙を放置すると、本件建物が倒壊するおそれがあると主張するが、被告が本件請負契約の内容と異なる施工をしたことにより本件各空洞及び本件空隙が生じたものとは認められないから、原告の主張を採用することができない。
その後、原告は判決を不服として控訴したが、控訴審においても上記原審の判断は維持され、原告の控訴は棄却された。
本件を担当した弁護士