争訟/紛争解決/刑事事件
民事商事紛争一般

下請業者が行った解体工事の振動により近隣建物に発生した亀裂等の損害を,事業主が被害者に賠償した上で,当該下請業者に対して,被害者に賠償した金額を損害として賠償請求した訴訟事件

 新規店舗出店を企図した事業主が,出店予定地上に存在した旧建物を解体した上で新規店舗を建築する計画を立て,まずはA業者に解体工事を依頼した。A業者は,請け負った解体工事を,解体専門業者であるBに委ねた。同解体工事の現場は軟弱地盤であり,かつ,旧建物敷地のアスファルト舗装が400㎜×3層あったが,Bは,バックホウ等を用い,特段,これらに配慮することなく,解体工事を実施した。この解体工事によって,甚大な振動が発生し,現場近隣の建物2棟の壁などに亀裂が発生するなどした。この事故に関し,Bの担当者が自社の加入している工事保険で損害が填補される旨説明をしたことから,事業主は,被害者らと交渉し,最終的に示談を成立させ支払いを行ったが,この後,今回の事故は工事保険の免責の対象であることが判明した。すると,Bは,突然,「工事保険で支払うなどと説明した事実はない」と主張し始め,事業主が支払った示談金の支払いを拒絶するに至った。
 本事案は,事業主において調停申立てを行い,協議による解決を図ったが,Bがこれをも拒否したため,事業主において,やむを得ず,Bに対して損害賠償請求した事案であり,事業主原告側訴訟代理人として訴訟を追行した。
 上記事案では,
①Bの行った解体工事により,近隣建物に被害が発生したといえるのか,
②Bの担当者において,Bが示談金を負担することを前提に,Bの加入していた工事保険が適用される旨説明した事実があるのか否か,
③損害額の相当性,
といった点が問題となった。
 まず,①については,解体工事前の家屋調査の写真・映像と解体工事後の家屋調査の写真・映像との比較によって,立証することが理想である。これができなければ,新築建物でもない限り,解体工事前の状況が不明と反論されることが容易に想定される。もっとも,本件では,解体工事前の家屋調査が行われておらず,上記比較ができなかったため,「当該被害建物に生じた亀裂等が解体工事によって生じたものといえるのか(元々発生していたものではないか)」という点が問題となった。
 上記については,
1)工事振動のメカニズム,重機が発生させる振動レベルの推定,解体工事現場における「あるべき」振動抑制措置等に関する第三者専門家の意見書(「解体工事用の重機の振動で,近隣建物に●dB程度の振動が伝達し得る」「そのため,解体業者としては,振動抑制措置として,●●をすべきである。しかし,現場では●●はされていなかった」という点を明らかにするものである。)
2)当職らが行った弁護士会照会(質問書)に対する被害者らの回答書(建物の原状の状態を最も把握している被害者側において,解体工事の振動がすさまじく,解体工事後に亀裂等が発生した事実などが指摘された。)
3)解体工事の現場を現認した新築工事請負工事会社担当者(第三者)の目撃証言,事業主側担当者の目撃証言(工事の状況や,被害建物を訪問した際の亀裂の状態等を明らかにする)などによって,立証を行った。
 また,②については,被害者との示談交渉の過程において,Bの担当者は,事業主側と度重なる打合せをし,そこでは工事保険が適用されると明言していたにもかかわらず,免責条項の関係で工事保険が適用されないと判明するや,交渉の窓口からフェイドアウトし,B側は会社として,むしろ「工事保険は適用されないと説明した」などと突然主張するに至った経緯があった(この態度は訴訟でも維持された)。事業主とBとの間で示談金の負担に関する合意書が取り交わされていれば,かような問題を生じないが,このような書面を取り交わしていなかったため,訴訟では「言った,言わない」の争いとなった。この「言った」という点については,事業主側で立証する必要がある事項である。
 上記については,
1)示談交渉過程において打ち合わせに参加した新築工事請負工事会社担当者の証言,事業主担当者の証言(B担当者の説明の状況を明らかにするもの)
2)時系列の整理(例えば,工事保険の適用に関し,「説明をした,していない」のやり取りがあった後に,事業主側担当者が「休業損害は工事保険の対象に含まれるのか」とB担当者に質問をした事実は,両担当者の証言で共通していた。時間の流れから考えると,そもそも「工事保険が適用されない」と説明を受けていた者が,その後に,「休業損害が,工事保険でカバーされるのか」という質問をわざわざするはずはない等々の事実関係の積み上げ)ということなどによって,立証を行った。
 さらに,③については,B側より,元々,被害建物に亀裂が生じていた可能性があるところ,示談金の中にはこれらの補修工事費用をも含まれているのではないかとの反論がなされたが,これに対しては,亀裂発生箇所のみ部分的に直しても,補修跡が目立ち,「意匠面」が回復しない,そのため,一定程度広範囲を補修(塗装等)する必要があり,元々一定の疵があったとしても費用的には変わらない,そのため,全て損害として認められるべきであると反論した。
 直接証拠に乏しい案件であり,解体工事前の家屋調査写真,示談金の支払いに関する合意書面等,王道ともいうべき証拠が存しない状態であったが,上記により逐一様々な事実を積み重ねた結果,第一審判決は,事業主側の主張を認め,全面勝訴した。
 現在,B側より控訴提起がなされたが,第一審判決を前提に勝訴的な和解をして和解金を回収した。 

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