争訟/紛争解決/刑事事件
民事商事紛争一般

交通事故により,被害者の脚に,知覚鈍麻,瘢痕等の後遺障害が残ったため,後遺障害逸失利益等の損害を賠償請求した訴訟事件

 加害者の車両が,路外施設へ向かい右折進行するに際して,加害者の安全確認不十分により,反対側道路から直進してきた被害者の原動機付き自転車と衝突し,これによって,被害者には,脚の骨折等に起因する後遺障害として,脚の膝外側部に知覚鈍麻(自賠責後遺障害等級14級),下肢に瘢痕(自賠責後遺障害14級)が残存するなどの事態が生じた(併合14級)。
 任意の交渉段階では,保険会社側は示談金「残金」として,当初『220万円余(他に,治療費等の既払い金は約370万円)』を提示してきたが,双方折り合いがつかなかったため,被害者側の訴訟代理人として,訴訟を提起した。
 上記訴訟では,法的論点として,次の事項が争点となった。
一 被害者の後遺障害として認定された「知覚鈍麻」は,神経症状にすぎず,労働への影響が乏しいことから(時間の経過や慣れなどにより症状が消失していくことが前提),逸失利益の期間は5年程度が相当ではないか(また瘢痕については労働能力に直結せず,逸失利益を別途認める必要はないのではないか)
二 被害者の事故時の収入は,賃金センサスの基準と比較すると,低廉な金額であったことから,何をもって逸失利益算定の基礎収入とすべきか。
三 過失割合(被害者側の前方不注視等)
 最も大きな争いの対象となった一については,次のような経緯を経ることとなった。
① 被害者の後遺障害として認定された事項は,「知覚鈍麻」と「瘢痕」のみであったが,手術により,被害者の受傷脚は,健側と比較して,屈曲時の可動域が10度程度制限される状態であった。また,知覚鈍麻については,単なる痛みにとどまらず,重心移動に耐えられず,「踏ん張り」が効かず,生活上支障が生じる状態であり,また,骨折後の骨の不整・変形治癒により関節液が貯留することなどもあり,これにより受傷脚を動かすことが困難な状態に陥ることがあるなどの事情が存在した。
② そのため,訴訟中ではあったが,自賠責の認定に対して,異議申し立てを行った。この際には,日常生活上の不便,被害者の苦痛などを具体的に整理するとともに,医師より医学的な知見をご教示いただき,「受傷脚は,骨折部位の変形治癒という器質的な変形に起因し,実質的な機能障害を伴う状態である」等々を訴えた。すなわち,知覚鈍麻という日本語に拘泥すべきではなく,被害の実態である1)苦痛・不便は,関節の器質的変形に由来するものであり,客観的に身体の一部に変状が生じていることを理解すべきであること,2)そうである以上,このことに起因する被害者の症状は回復していくことは考えられず,むしろ加齢とともに,悪化していくものとしか評価できないこと(老齢による関節痛などを想起していただきたい),3)現実に現段階でもこれだけの苦痛,不便を強いられている以上,悪化の際には,就労はおろか日常生活にも甚大な支障を生じることが明らかであるということなどである。
③ 上記の結果,自賠責の事前認定は覆り,「知覚鈍麻」は,後遺障害等級14級から,12級に格上げされることとなった。そのため,これを受け,訴えを拡張(請求金額の増加)することとなった。
 このような過程を経て,逸失利益については,後遺障害等級の格上げにより,労働能力喪失率の評価と喪失期間の評価について,被告側でも見直しを余儀なくされ,裁判所から和解案が提案されるに至った。
 この裁判所提示に係る和解案は,一については,12級の後遺障害等級を前提とした労働能力喪失率と労働能力喪失期間(但し,期間については神経症状という観点から一部は制限)を前提,二については,事故前の現実収入(低額)および賃金センサス男子学歴計(全平均)のいずれでもなく,学歴に応じた平均賃金を基準(事故時の実収入よりは多額),三については折衷的な過失割合(原告=0:10~1:9と主張,被告=3:7と主張していたことに対して,1.5:8.5)を前提としたものであり,これらをふまえ『1300万円余(他に,治療費等の既払い金は約370万円)』(保険会社の当初提示額の約6倍)というものであった。
 和解解決として相応の金額であったが,被害者にとっては一生の問題である。
 そのため,当方の主張が受け容れられなかった部分については,再交渉をし,最終的には,『1350万円(他に,治療費等の既払い金は約370万円)』で,被害者の納得のもと,和解成立という運びとなった。
 今回の裁判では,自賠責の事前認定に対して異議申立てを行い,自賠責で当方の主張が入れられ,後遺障害等級が格上げされたという点が,審理に最も影響を与えたものと考えている。この異議申立て等の準備や訴訟上の医学的な主張の際には,ご協力いただいた医師のご経験・知見が大変貴重であり,かつ,決定的であった。
 とかく,後遺障害等級14級や12級の場合における「神経症状」に関する後遺障害などは,労働能力喪失期間などの点で,被告側より争われやすく,短期の労働能力喪失期間しか認めない裁判例も散見されるところである。
 当然のことであるが,『個別具体的な事案に応じ,被害者の苦痛,不便を,医学的知見を背景に基礎付ける』べく,事情聴取,専門的知見の収集を怠ってはなるまい。

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