有賀 幹夫
弁護士
パートナー東京事務所
加害者の信号無視などにより,加害者の車両が被害者の車両と衝突し,加害車両は横転,被害車両は前部が破壊という交通事故が発生し,これによって,被害者には,脊柱の変形障害(自賠責後遺障害等級11級),瞼の線状痕(自賠責後遺障害等級12級)の後遺障害(併合10級)などが生じた。
保険会社側は示談金「残金」として当初『560万円余(他に,既払い金は470万円余)』を提示してきたが,双方折り合いがつかなかったため,被害者側の訴訟代理人として,訴訟を提起した。
交通事故案件では,財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部の「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」などの算出式により,逸失利益等の損害の算出方法がある程度類型化されている。
もっとも,個々の事案に応じて,様々な主張がなされ争われるケースがあり,損害額については熾烈な対立が顕在化することも多い。
本件においても,例えば,①逸失利益の算定に関して,(1)被害者が高齢であり,事故前は賃金センサスの平均賃金より低い収入しかなかったため,「実際の減収の存否」という観点からみれば,現実の事故前の収入を上回る賃金センサスの平均賃金を逸失利益の算定基礎として用いるべきではない(当方の主張は賃金センサスの平均賃金を基礎に逸失利益を計算),(2)外貌醜状については労働能力に対して直接の影響を与えるものではない,(3)脊柱変形についても具体的な症状が背部痛にとどまる程度であれば,当初は20%程度の労働能力喪失が認められるとしても,その後は低減することから14%程度とみればよい,②休業損害の算定に関しても,100%全額ではなく,急性期を経て徐々に緩解するのであるから,それを反映し,一定の限度に留めるべきである等々との反論を受けることとなった。
本件では,医師の助言を得て,医学面からの反論を構築するとともに,依頼者である被害者より日常や業務時の障害などを詳細に聴取し,主張,立証を行った結果,裁判所より,和解案が示されることとなった。
この結果,裁判所からは『1250万円余(他に,既払い金は470万円余)』での和解金額の提示があり,当該和解案に至った過程も当方の主張を相当程度斟酌されたものであったことが確認できたため,被害者の納得のもと,これを受諾し,和解成立という運びとなった。
交通事故訴訟は事例の集積により損害額の算定基準,過失相殺の基準などはある程度は類型化されているが,個々の事件・紛争には個々問題となり得る事柄があるのであり,一つ一つの詳細な反論,立証の大切さを改めて痛感した事件である。
本件を担当した弁護士