萩野 貴光
弁護士
パートナー名古屋事務所
1 事案の概要・争点
建築業者が注文者との間で新築住宅建築工事の請負契約を締結し,工事を進めていたところ,基礎における施工の不備が発覚し,これを契機として請負契約を解除することとなった。注文者からは,建築業者に対し,種々の損害賠償請求がなされていたが,その一つとして,建築費の高騰により将来の自宅の建築費が増加することとなったとして,建築費増加損害等の請求がなされていた。当職は建築業者側の代理人として対応した。
2 当方側の主張
当方は,「原告は建設物価が上昇している旨主張するが,すべての建築資材が値上がりしているわけではなく,実際に原告が再建築する際の費用が上昇するとは限らないし,建築に係る請負代金は各社によって価格設定が異なる以上,原告の主張は机上の空論であって,何ら損害の立証がなされているとは言えない。」,「本件では既に設計が出来上がっている以上,再建築するにあたってはその分の経費等が不要になるため,建築費用(設計費用や諸経費)はむしろ減額されるはずである」等と主張した。
3 裁判所の判断
裁判所は,「(1)本件不履行①があった時点において,本件建物を直ちに取り壊す必要があるか否かや,本件建物を取り壊して更地にして返還した場合に,原告において他の施工業者を利用して同様の建物を建築することが,被告において具体的に予見できたと認めるに足りる的確な証拠はないこと,(2)一般に,原告宅の建築費がどの程度になるかは,施工者をどの業者にするかやその設計をどのようにするか(被告による設計から変更するか否かも含めて)などに大きく左右されることから(被告代表者17頁),本件不履行①があった時点において,被告において建築費が増加することを具体的に予見できたと認めるのは困難であること,(3)建築資材等のコストについても,一般に,その時々の国内外の情勢や需給状況等によって左右されることが多く,本件不履行①があった時点において上昇傾向にあったからといって,被告において将来上昇することを具体的に予見できたと認めるのは困難であること等に照らせぱ,原告主張の建替え建築費増加損害について,本件不履行①との間に相当因果関係を認めることはできない。よって,建替え建築費増加損害は認められない。」として,上記論点について当方の主張を採用する判決となった。
本件を担当した弁護士