住宅・建築
瑕疵担保責任・契約不適合責任

多数の細かい瑕疵を理由に建て替え費用相当額の損害賠償請求がなされた事案

 施主は,平成14年に,建築施工業者に対して,①約80個に及ぶ瑕疵につき,瑕疵修補に代わる損害賠償,②工期遅延に基づく遅延損害金,③慰謝料等を求め,訴訟を提起した。その後,約6年間にわたり,審理が継続し,当事者本人,証人尋問等が行われた結果,裁判所は,建築施工業者が,施主に対して,「1500万円~1600万円」を賠償せよという和解案を提示した。
 同和解案は判決書のような体裁であり,事実認定,瑕疵の認定を前提としたものであった。また,通常の訴訟進行に従えば,同段階で,和解が成立しなければ,同和解案で記載された事実認定,瑕疵の認定を前提に,判決という状況であった。
 この段階で,当事務所は,建築施工業者より依頼され,多額の損害賠償を回避するために訴訟代理人に就任し,業者側代理人として訴訟追行を開始した。
 当時和解案で認定された瑕疵で,最も多額の賠償金額となったのは,①屋根下地合板,構造用合板を巡る瑕疵(F1でなければならないにもかかわらず,粗悪品が使用された)であった。
 また,②種々の瑕疵の中には,補修工事を実施した方がよいと考えられる項目もあったが,裁判所が提示した補修工事費用(施主側の資料ベース)が著しく高額であった。
 そこで,本件においては,各瑕疵に対して,逐一技術的な反論をすることは当然,特に上記①及び②に配慮して,訴訟活動を行っていく必要があった。
 争点①については,使用された合板自体にF1との表記がなかったため(物件自体古かったため,当該物件建築当時は,合板にF1という表記をすることが一般的ではなかった事情等があった。丁度,過渡期であった。),ストレートにF1合板を使用したと反証することが困難であった。
 そのため,合板の問屋,製造工場等,関係業者へ問い合わせを行い,「当時,合板には必ずしもF1等の表記はなされなかった。しかし,本件において使用された合板は,F1のはずである」ことを明らかにするために,種々の調査を行い,業者の納品書(F1との表記はないが,一般的な合板単価と比較して,高額な製品であったこと),報告書等の証拠を収集し,外堀から埋めるように,反証活動を行った。
 また,争点②については,個々の瑕疵に関する技術的反論と併せ第三者一級建築士と協議を行い,建築物価資料,第三者業者の見積もり等を作成し,個々の瑕疵項目毎に,相当な補修工事単価を算出した。
 結果,裁判所の事実認定は,和解時の認定から覆り,判決においては,争点①につき,「被告●●にF1と同等品を納品したという●●産業株式会社職員の陳述に特に疑いを差し挟む事情は見当たらず(なお,ホルムアルデヒド含有量に関する合板の等級表示は,当時は任意であったことが明らかであるから,表示の不存在が直ちにホルムアルデヒド多量含有を意味するものではない。),上記証拠及び弁論の全趣旨によれば,F1合板の使用が認められる」として,瑕疵はないと認定された。
 また,②については,一定程度瑕疵と認定されはしたものの,施主側の根拠ない補修工事見積もりは
 基本的に否定され,具体的な根拠とともに提出した資料に基づく金額がベースとして認定された。
 結果,瑕疵に関わる補修工事費用としては,損害額は300万円程度におさまった。
 なお,工期遅延を巡る問題については,追加変更工事が多数あったこと,工事中の打合せが微に入り細に渡ったこと等,施主側の事情を個別具体的に立証したところ,施主側の事情も斟酌され,約定遅延損害金の25%程度は施主負担とされた。
 本裁判では,一級建築士等,建築工事の専門家が裁判所に関与しておらず,それゆえ,当事務所が介入した当時の裁判の状況は,瑕疵を巡る技術論,補修工事費用等を巡る整理が,長期間審理を継続し判決間近であったにもかかわらず,あまりにも不十分と云わざるを得ない状況であった。この状態のままで判決が下されていたらと考えると恐ろしくなる。
 やはり,技術訴訟には,当該技術の専門家の関与が不可欠であろう。

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