有賀 幹夫
弁護士
パートナー東京事務所
工務店が,設計・施工した戸建て住宅について,施主側より,「風水の関係から水廻りは北側にしてはならない(水廻りを北側にすると,夫が家に帰らなくなる等)ということを伝えていたのに,無断で設計変更され,間取り等が変更されたことから,瑕疵である」等と主張され,損害賠償が請求された事案である。工務店側の被告訴訟代理人として関与した。
本件では,建築工事請負契約に先立って締結された施主と建設地所有者との間の不動産売買契約の段階では,対象土地に一部地役権の設定地域があったが正確な情報がなく,また地積も確定地積ではなく分筆が予定されていたこと等の事情があった。これらが整理される前段階で,建築工事請負契約が締結され,その後,地役権の正確な情報が整理され,分筆後の確定地積が明らかとなったことから,この段階で,建物について,間取り・形状等の設計変更が行われることとなった。
もっとも,変更工事契約書等の書面が作成されなかったため,施主は,上記変更を無断変更と主張するに至り,「言った,言わない」の問題が生じて紛争が顕在化したものである。
上記は総じて,設計変更に関する事実認定の問題である。この点については,残っていた議事録を証拠として提出し,営業マン,設計担当者,工事担当者の証人尋問を行うとともに,施主側の主張の不合理性,建築工事実務における打合せの常識的な態様などを詳細に整理して主張を行った(例えば,本件では,契約図面から「間取り・形状等の変更」を行った後に建築確認申請が行われ,さらにその後に,窓の大きさ,位置の変更などを理由とした軽微変更届が提出されていたが,経験則上,このような窓の大きさ,位置の変更を,工務店が施主に無断で行うべき理由はなく施主の希望によるものとしか考えられない→建物が上棟すらなされていない段階である以上,施主は図面をみて変更を希望したはずである→確認申請段階の図面と軽微変更段階の図面における「間取り・形状等」は一致する→確認申請段階の図面においては既に「間取り・形状等の変更」はなされていた以上,施主は変更後の間取り,形状等を当然の前提にしていたはずである等)。
この結果,第一審裁判所は,設計変更の事実を認定し,原告側の請求を棄却した。
その後,本件は施主側より控訴されたが,控訴審裁判所も第一審判決を維持し,施主側の控訴を棄却し,判決は確定した。
紛争予防の観点から,設計変更などの契約事項を変更した場合には,都度,変更契約書を交わす等,客観的な資料を残しつつ,事に挑むことが如何に重要か痛感した案件である。
本件を担当した弁護士