住宅・建築
瑕疵担保責任・契約不適合責任

構造上の建築瑕疵に基づく損害賠償請求に対して,消滅時効の主張が認められた訴訟事件

 本件事案は,平成11年完成物件の施主が,業者側に対して,平成18年12月19日に①建物の不同沈下,②筋交いの不存在等を理由に,不法行為ないし瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求をした事案である。なお,当該施主は,第三者一級建築士から建物の瑕疵に関する調査報告書(平成15年12月20日付)を書証として提出していた。
 本件の争点は,前記①②が法的に瑕疵に該当するか否か,また,損害賠償請求権が除斥期間の経過ないし時効により消滅していていないか否かという点である。
 【除斥期間・時効の補足】
 瑕疵担保責任の除斥期間は,契約上,引渡から5年(品確法施行前の物件)
 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は「損害及び加害者を知った時から三年」
 (民法723条)
 まず,瑕疵の問題に関しては,①不同沈下に関わるレベル測定の結果の分析方法が不当であったため,当方において3mタームでの不同沈下の状況を●/1000で計算したところ,3/1000未満であったことから,施工精度ないし地盤の若干の圧密の問題であって許容範囲内である旨反論し,また,②筋交いの不存在については,確かに建築確認申請図書では筋交いを設置する旨図示されているが,本件契約においては,土壁・貫工法が前提とされていた以上,合意内容通りであって瑕疵ではない旨,反論した。
 もっとも,上記技術論を主張,立証すると審理が長期化することが予想されたことから,除斥期間の経過,及び,消滅時効を全面的に強調し,裁判所に対しては,まず,除斥期間,消滅時効に関わる事実関係を認定していただきたい,その上で,中間判決を下して欲しい(なお,当方の主張が認められた場合には,「中間」判決ではなく,事件終了を意味する「終局」判決となる)旨,要請して,事実関係に関する人証調べが先行して行われることとなった。
 第一審は当方の主張を認め,控訴審も当方の主張を認めた。
 瑕疵担保責任の除斥期間については,「控訴人は,平成12年6月7日,被控訴人に電話をして,家が傾いている,柱が傾いている,家を建て替えて欲しいなどと言ったものであるが,平成18年12月10日に至るまで書面による請求もなく,具体的な瑕疵を特定してその修補を請求した形跡はない。平成18年12月10日付けで●●弁護士が出した通知書(甲5)には,過去に補修を要求したと記載されているが,前記のとおり,控訴人は被控訴人から大丈夫だと言われて安心していたと供述しているのであって,その真偽はともかく,少なくとも,被控訴人から説明を受けた後は控訴人が具体的な補修の要求をしていないことは明らかであり,控訴人の上記のような口頭でのクレームをもって瑕疵修補請求を裁判外で行使したものと認めることはできない」と判示して,除斥期間が経過している旨認定した。
 次に,不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効に関しては,平成15年5月ころまでに施主は弁護士を紹介されたことを前提として認定し,加えて「専門家による見解は,損害賠償請求に理由があるか否かの判断に必要とする場合があるけれども,損害賠償請求の可能性を判断するのに,必ずしもこれが必要であるとは解されないし,前記のとおり,「損害を知る」とは損害の発生を現実に認識すれば足りその程度や数額を知る必要はないのであるから,1級建築士の報告書の完成やその説明を待つまでの必要はないといわなければならない。」「したがって,控訴人の被控訴人に対する不法行為による損害賠償請求権は,仮にこれが発生していたとしても,本件訴訟提起前,遅くとも平成15年6月20日には時効により消滅したものというべきである。」と判示して時効消滅を認定した。

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