住宅・建築
工事請負契約

請負契約締結後の事情が影響した事案

 ハウスメーカーのX社は、施主Yの資金繰りの必要性から、工事請負契約を締結してから、着工するまでの間、2年間の期間を空けていました。しかし、その間に、建設予定地前の道路の車線数が、2車線から1車線へと減少してしまったため、当初予定していた工事計画よりも、資材の搬入等にかかる費用が増加することとなってしまいました。そこで、請負人であるX社が、工事費用が増加する旨を施主Yに説明したところ、施主Yは、そのようなことは到底納得できない、と主張の上、請負契約の解除をしました。
 その上で、既に支払われていた契約金の返還を求めるとして、施主YがX社に対して訴訟を提起してきたのが本件になります。
 施主Yは、請負人X社の債務不履行事由に該当するような事実関係も主張していましたが、法的観点から十分に整理されない主張に終始していたため、当職は、請負人側として、施主Yの解除は、何らの解除事由がないにもかかわらずなされた施主都合解除である点を指摘の上、X社としては、かえって、同解除により発生した損害賠償請求権と受領済の契約金の返還請求権を相殺するとの主張を展開しました。
 裁判所は、当方の主張を全面的に認め、相手方に対しては、契約金よりも高額の支払い義務を負う可能性もあるなどと説得し、当方に対しては、早期に解決することのメリットを説いたうえで、双方に対して「一切の債権債務が存在しない」との内容での和解勧告を行い、この案件は、その日のうちに、同内容での和解が成立しました。
 本件では、契約締結後の事情変更という論点が絡んでいましたが、当方は、契約締結後の事情変更によっても契約金額が大幅に変更された訳ではなかったことを強調し、結局、施主の都合で解除したのだ、との主張を強く裁判所に印象づけることができたことから、裁判所からも、早期に上記のような和解勧告をして貰うことができたものと考えられます。
 このように、施主側から解除の主張がなされた事案では、その解除が、何かしらの債務不履行事由を根拠とした債務不履行解除なのか、それとも、施主の都合に基づく施主都合解除(民法641条)なのか、との点が、結論を大きく左右するポイントとなります。丁寧な弁護活動をする代理人だと、主位的に債務不履行解除の主張をして、仮に認められなかったとしても、予備的に施主都合解除を主張する、という内容を明示的に主張しますが、この点を失念し、債務不履行解除の主張のみを行う事例も散見されるところです。この場合には、債務不履行事由が存在していなかったことを主張し、解除の無効を主張した上で、別業者での工事をしていたような場合には、施主の責めに帰すべき事由に基づく履行不能状態に陥ったとして、民法第536条2項の適用を主張の上、報酬請求することも考えられるところです。

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