井上 雅之
弁護士
パートナー東京事務所
概要:本事案は、施主から、施工業者に対し、①既払の工事のうち、使用変更等による減額があるとして不当利得返還請求、②工事の履行遅滞による違約金請求、③瑕疵担保責任による損害賠償請求がなされ、当方において、反訴として、追加変更工事代金請求をしたものである。
なお、本事案においては、新築工事ではなく、増改築工事であり、かつ、追加変更工事の合意の際に、契約書や見積書などの書面の作成は行っていない状況であった。
結論:まず、裁判所は、施主の不当利得返還請求については、使用変更による代金の減額はないとこれを排斥し、違約金請求についても、引渡の遅滞は、施主の追加変更要望に起因するものとして、請求を排斥した。また、瑕疵については、争点は多数に及ぶところ、代表的なものを例示すれば、柱の傾き(最大1000分の5)に関し、増改築工事であることを考慮して瑕疵該当性を否定し、設計図書と施工が異なる部分については、「合意に沿わない施工が直ちに瑕疵になるとは解されず、その違反の程度も考慮して瑕疵に当たるかを判断すべき」とし、施主の瑕疵の請求を全て排斥した。
一方、当方の追加変更工事代金請求については、「〔当初の〕仕様書及び最終図面に記載の工事を本工事とし、原告の依頼により本工事に追加され、ないし本工事の内容を変更したと認められる工事については、工事により減額となる場合や、追加変更を無償で行う合意がなされたなどの特段の事情がない限り、相当額を報酬として支払う旨の黙示の合意があったものと認めるのが相当である」とし、追加変更内容を一つずつ検討し、当方の9割以上の請求には理由があると判断した。
事前に契約書及び見積書を提示していない場合であっても、追加変更となった工事内容を特定できる場合には、相当額の費用を請求できる事案として参考となる。
なお、本件、控訴審において、和解が成立した。
本件を担当した弁護士